Hallicrafters SX-110
1959-62


ハリクラフターズ社の高一中二型受信機としては、最後期のもの。 シングルコンバージョン通信型受信機としては、最後期のものである。 シングルポールのクリスタルフィルタとSメータを装備している。 クリスタルフィルタとSメータを省略したS-108と共通のデザインは洗練されていて、見て美しいという点では、S38と並びハリクラフターズでは最も良いと私は思っている。
写真では判りにくいが、総てのツマミは前面より付け根が細い逆テーパになっている。
デザインのポイントでもあるが、指掛かりが良く、廻しやすい。 その後、このデザインは使われていないが良いアイデアである。
見た目は大きく見えるが、実は46cm幅と小型で軽量。

SX-110はハリクラフターズ社の最高に輝いていた時代の作品であり、通信型受信機としての品位を保ちつつ、モダンなデザインと色遣いは、ラジオとは一線を画す絶妙なデザインである。540KHz-34MHzを4バンドでカバーし中間周波数455kHz。 左の扇型ダイアルがメインチューニングで、横行ダイアルはハムバンドのスプレッドダイアルである。 1959-62 製造アンテナトリマ、BFO可変、クリスタルフィルタのコンペンセータが付き、Sメータも付いている。 但しSSBの復調は、プロダクト検波を装備していないので、RFゲインを絞り、AFゲインを上げて丁度良い点を探す必要がある。当時の日本の受信機は春日無線の9R42Jであるから、彼我の差は大きかった。 この後、数年で日本がキャッチアップし、米国製受信機は駆逐されていく。

シャシは、メッキされた鋼板である。 保存が良く、錆は殆ど見られない。
バリコンはメイン、スプレッド、アンテナトリマの3台が搭載されている。アンテナトリマは長いシャフトで延長され手抜きはない。 メインダイアルは糸かけで減速比は大きくないが必要充分。
伝統の透過型照明が美しい。

真空管は整流管と出力管を除いて伝統のメタル管である。 黒い色がアクセントになり頼もしい感じがする。 左端はSメータで、縦振れメータであるが、安価なラジケータではなく、ちゃんとした電流計が使用されているのは流石。

一番右下の高周波増幅用の真空管の下に見える小さなRCAジャックは局発のカソードから抵抗で分圧し同軸で引いている。 S-40Aの解説で紹介した受信周波数直読のデジタル周波数カウンタを接続するために増設した。

オリジナルを損ねないように、元から有るビスを利用しL端子で固定した。

引き出しも、半田のチョイ付けで簡単に復元可能としている。

周波数カウンタは、こうしたアナログ受信機では必須のアイテムである。 最新の受信機のように、スパッと目的の周波数に合わせられる。 メインダイアルのトラッキングなんてどうでも良い。 スパッと合わせてスパッと聞く。 一度使ったら手放せない。 


スプレッドダイアルは糸かけのプーリからダブルギアで更に減速して、太く長いシャフトのバリコン軸を駆動している。 この長い軸はきちんとギアボックスで受けている。
それに対して、メインバリコンの軸は、同様に非常に太い軸が使用され、それ自体の強度は充分であるが、S-40の項でも述べたようにダイアル糸で左に引っ張られているので、機械的強度は充分でも好ましくない。 少なくとも1938年のS20Rから同じような構造なので、当時は問題にならなかったのであろう。


それにしても、バリコン軸の太さといい、糸かけにギアを組み合わせるなどコストが掛かっている。 同時代の日本製トリオ9R59では、巨大なプーリを使用し大きな減速比を獲得している。 その反面、メインとスプレッドを巨大な横行ダイヤルとしたために、糸が非常に長くなり、糸の延び縮みによるフニャフニャのダイヤル感覚となり、SSBの復調では極めて繊細な同調技術を要求された。
その点、SX-110では、メインダイヤルを円盤とし短い糸で駆動しているので、しっかりした感覚である。 スプレッドは長い糸を使用しているので、フニャフニャかと思いきや、コスト高のダブルギアを使用し、ダイヤル軸とプーリの間の糸の長さを短くすることで、しっかりした感触を確保している。 最初何故大きなプーリを使用してギアを省略しなかったのかと疑問に思ったが巧みな設計に脱帽した。 昔の愛機9R59では、ダイヤル軸はパネルの右端にあり、バリコンのプーリから遠く離れていたので、途中の糸が延び縮みしてフニャフニャだったのだと気づいた。 これに気づかなかった春日無線は、せっかくS38のコピーの9R4xシリーズで短い糸を採用していながら、JR−60からR300まで長い糸のダイヤルを作り続けてしまったのだ。 



シャシの裏側。 表も綺麗だが、埃の掛からない裏側は新品の輝きを保っている。
プリント基板は使用せず、総て手配線で、単線を使用して強度を保ち、信号の飛び付きを起こしやすい束線は行われていない。 これは他の古いハリクラに共通する特徴である。

パネル面がわ中心の円筒形シールドは、クリスタルフィルタのトリマコンデンサのシールド、下側の円筒形シールドはBFOのコイルである。

高周波のコイルは、トリオなどで使用されているコイルパックではなく、一々配線されている。薄いアルミ板に組み立てたコイルパックと違い、こいるは強固なシャシに直接ネジ止めされている。 コアもボビンに直接タップが切ってあり、粘性のあるワックスでしっかり保持されている。 9R59等では、コアは3mmのネジに付けられていて、ボビンの中でブラブラしているが、この辺が、周波数安定度の違いの理由かも知れない。 バンドスィッチはフロントパネルからバックシャーシまで貫通していて、位置決めのクリックストッパーは後ろにあり、しっかりした切り替えが出来る。 この構造はNational社の受信機でも見られる。 コイルパックで生産性を上げて低価格を実現した日本製と見かけのスペックは同じでも性能を取り高コストの米国製の受信機。 この受信機が発売された翌年、トリオの9R59が登場している。 9R59は私がアマチュア無線を始めたときに初めて使った受信機であり、愛着があるが、使用している部品の品位といい、手間のかけ方といい、この頃の日米の力の差を感じる。


電源回路にヒューズが入っていない。何十年も経って、未だに燃えていないので、部品の品質が良ければ必要ないのかも知れないが、何となく不安。 まさか、このクラスの受信機でヒューズをケチった訳じゃないだろうが、私の持っている他の米国製受信機でもヒューズが無いものが多い。 さすがにコリンズには入っているが。




BFO周りの配線。 今では入手困難なマイカコンデンサが多用されている。 幸い、総て健康である。 色も生産時の美しい色を保っている。 同調はコイルのコアに直結で周波数調整つまみが付いていて、バリコンを使用しない合理的設計である。 この構造はS20Rから同じである。
この頃の受信機で問題のスプラグ社のブラックビューティと似たじプラスチック封止のオイルコンデンサが左下の黒い部品である。 ブラックビューティは割れたり、膨らんだりと、劣化していることが多いのであるが、本機に使用されているのは有名なCORNELL DUBILIER BLACK CATで、新しいのか、保存がよいのか総て健康で、リキャップの必要は無かった。 抵抗も、S-40Aの様に劣化したものは無かった。 新しいからと言うこともあるが、使用している部品の品位が上がっているようである。 

抵抗を含め、総て交換を予定していたが、オリジナルで動いてしまい、レストアの楽しみは奪われてしまった (笑)  




残念ながら電源のケミコンは劣化していた。 外観はピカピカで、端子周りも液漏れなどは見られなかったが、外して測定したところ、30,10,10mmfのはずが、8.7,、0.002、0.003だった。 容量抜けなんてもんじゃない。 最初電源を入れたとき、大きなハムが聞こえたが、当然だ。 重量72gと、持った感じも明らかに軽いので電解液が乾いちゃったのだろう。


これは交換した新品のもの。
こうしたブロック型ケミコンは入手難だ。 以前見かけたときにまとめて購入したが、手持ちが心細くなってきた。 近い将来、こうした真空管式受信機のレストアは困難になって来るであろう。

特に、このタイプの爪で固定するタイプは日本製では殆ど見られないので貴重。 オリジナルより容量の大きいものを使用したので、更に音質面ではメリットがある。 交換後、当然ハムは消失した。


この頃の受信機で使用されているコンデンサは、他にマイカとオイルコンである。 特に、黒いチューブラ型のオイルコンはトラブルの元である。 悪評の高いのは、スプラーグのBlack Beautyという種類で、外装がプラスチックの物である。 これは、古くなると外装のプラスチックが割れてショートし易い。 特に、オーディオ段の段間のカップリングコンデンサがショートすると、次段の真空管のグリッドに高い電圧が掛かり、連鎖的に部品の破壊を来すことがある。 この機械は、スプラーグではなく、名前は似ているがBlack Catというコンデンサが使用されている。 現在の所、総て健康である。 








[総括]
Good Old Days のアメリカ受信機である。 今日実用的に使うにはSSBの復調という問題がある。 オーディオゲインを上げ、RFゲインを絞って適当なBFOと信号の割合を手動で設定する。 プロダクト検波が搭載されていない受信機では必須の方法で、慣れれば、航空管制やローカルラグチューは容易に聞くことが出来る。 利点としては、コリンズや最近のシンセサイザタイプの受信機と較べ、サワサワとしたノイズが少なく、静かな優しい音がする。 別項で紹介している軍用の受信機と較べ、民生用の本機は構成も簡単で、単純な故の良さがある。  最高の性能を求めるなら、最新のシンセサイザ式受信機には敵わない。 しかし、こうした高一中二の受信機は、単一バンドで非常に広い周波数範囲をカバーし、シンセサイザ受信機のロータリーエンコーダのクリックも無く、スムーズなアナログ同調が楽しめる。 こうした点からマニアには堪えられない魅力がある。
BCL用としては非常に素晴らしく、特に中波が受信できるので、キッチンラジオにも使える。

オリジナルが素晴らしいので、改造は控えたが、トランジスタで回路を追加し、プロダクト検波とセラミックフィルタを追加すれば最近の周波数シンセサイザ式の受信機とは異なるアナログの楽しさが倍加するだろう。 前述のように、周波数直読のカウンタを外付けすれば完璧。 シングルスーパの柔らかで静かな音が楽しめる。