山の花々(3)

・・・・・山で出会った名花・珍花・・・・・

金子 圭一

既に日本百名山(深田 久弥)を数年前に走破した彼が、その時々に集めた”山の花々”は140数種類になると言います。
そんな中から、前回に引き続き彼の花アルバムの中から抜粋して記載します。題して「山で出会った名花・珍花」です。

「ニッコウキスゲ」    平成8年7月20日・越後・荒沢岳頂上直下の稜線

ニッコウキスゲは一つ一つが見事な大輪である上に、しばしば大群落を作る。
「お、あの黄色いのは何だろう・・・・」と思わせるほど広大な草原を文字通り黄一色に埋めて咲く明るさは、まさに高原の夏の象徴的な存在、山の花の筆頭におかなければならない花の一つであろう。
本名はセッテイカ(セッテイとは湿ったと言う意)と言うが、日光の広い高原(霧降高原辺りの事か)を一面に埋め尽くして咲くキスゲ(黄色のスゲ)と言う事からニッコウキスゲと呼ばれるようになった、と言う。ちなみに北海道ではエゾカンゾウと呼ぶ。
「ミズバショウ」      昭和55年5月2日・栂池高原・落倉にて:春スキーの帰り道

憧れの山の花としてこれくらいもてはやされる花もそうザラにはないだろう。初夏ともなれば猫も杓子も水芭蕉咲く尾瀬へ、と騒ぎ立てる。尾瀬は水芭蕉の代名詞のように言われているが、最近ではすっかり荒されてかっての面影はない。
それよりも、人に知られずにひっそりと咲く各地の水芭蕉の方が自然のままで美しい。
美しい水芭蕉も花が終わったあとのあのオバケのようなバカでかい葉を見てがっかりさせられた事はありませんか・・・・・・・・。
「トキソウ」         昭和56年7月18日・雨飾山・笹平にて

トキソウは「朱鷺」(トキ)と言う鳥の羽色と同じ淡紅色の美しい色をしているのでそう呼ぶ。花色が淡く、他の草の葉陰にしっそりと咲くので、よほど注意していないと見つけるのは難しいと言う。
私がこの花を見たのは雨飾山が最初で最後だった。今にして思えば、もっといっぱい写真を撮っておくんだった、としみじみ思う。
「朱鷺」と言う鳥は現在絶滅の危機にある。この鳥が居なくなったら、トキソウもやがて「幻の名花」と言われるようになるかも知れない。
「タカネビランジ」       平成4年8月16日・南アルプス・悪沢岳の岩場にて

南アルプスの椹島から赤石〜荒川三山を縦走した時、荒川中岳の鞍部から悪沢岳への急峻な岩稜にさしかかったとたん、岩間にこの花を見た。
今までに見たことのない花とて、思わずシャッターを押した。後で調べてみると、それはタカネビランジ、南アルプスの赤石山系にしか咲かない、と言う珍花であった。
これもまた、貴重な一枚である。
「アオノツガザクラ」     昭和54年8月11日・乗鞍岳にて

葉がツガに、花がサクラのつぼみに似ているところからこの名がある。夏のアルプスの岩稜地などでこんもりと群れ咲いているのをよく見かけるが、なにぶんにも小さい花ゆえうまい具合に写真に収めにくい。
それにしても小さな壷のような粒々の花はなんとも愛らしい・・・・・・。
淡紅色の花をつけるのがツガザクラ、濃いピンクの花はエゾノツガザクラで北海道にしかない。
「ミヤマムラサキ」  平成12年6月5日・上高地にて(OB会・2000年記念山行)

悲しい恋の物語と「私を忘れないで」の花言葉を背負って咲くワスレナグサ・・・・・「忘れな草をあなたに」と唄にも歌われた忘れな草に、最も良く似た花がミヤマムラサキだ。
この花の生育地は、本州中部と北海道の高山で、東北を飛び越えているのが面白い。
木曾の開田高原で見たことはあったが、上高地にこれだけの群落があるとは思わなかった。小さなルリ色の花がなんとも愛らしい。

「ミヤマオダマキ」    平成4年7月25日・早池峰山・龍が馬場附近

つい美しすぎてみんなにむしられてしまう、と言うユニークな形をした珍しい高山植物の一つであるが、繁殖力が弱い為急速に姿を消しつつある、と言う。
それだけに、コマクサやクロユリと並んで今では貴重な花の一つであろう。
うつむきかげんに咲くみやびやかな品の良い紫色に心を惹かれる。
「テガタチドリ」       昭和55年7月19日・鹿沢高原・三方が原にて

この花は、いろんな山に登ったがついぞ見かけたことはなく、珍しい花の部類に入るだろう。
チドリは「千鳥」、一つ一つの花弁が群れ飛ぶ千鳥の姿に似たところからつけられた名か・・・・テガタと言うのはこの花の根が大きく、手のひら状になるからだ、と言う。
めったに出会う事も無いこの花に、鹿沢の三方が原で出会うなんて・・・・・貴重な一枚である。
なお、似た花に「ハクサンチドリ」がある。
「トウヤクリンドウ」    平成9年8月11日・北アルプス・黒部五郎岳にて

リンドウは薬用植物として良く知られているが、中でもこのトウヤクリンドウは薬用性が高い。
「トウヤク」とは「当薬」、即ちセンブリのことで、この花の根をせんじて飲めば効果バツグン、と言うから覚えておいて損は無い。
もっともこの花の花期は8〜9月と遅いから、通常我々が行く夏のアルプス山稜ではめったに出会う機会が少ないのが残念だが・・・・・・・・。
「チシマリンドウ」      昭和60年8月13日・北海道・利尻岳にて

オノエリンドウ、リシリリンドウ、ユウバリンドウ、とともに北の山にしかない独特の花形を見せるこの花は、私にとって二度と出会うことがないであろう稀少な花の一つである。
それだけに、花も少ない晩夏の利尻岳でこの花に出会えたのは幸運であった。
クロユリやザゼンソウのように黒っぽい花を見ると、何となく稀少性を感じてしまうが、この花も又珍花と言っていいだろう・・・・・・・。